競争戦略論 第13・14回 経営資源と事業戦略 PDF

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東洋大学

山口 裕之

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経営資源アプローチ 経営資源 競争戦略 ビジネス戦略

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このドキュメントは、東洋大学経営学部山口裕之先生による競争戦略論、第13・14回、経営資源と事業戦略に関する講義ノートです。資源アプローチやVRIOフレームワークといった概念、持続的競争優位性を解説しています。

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ポジショニング・アプローチへの疑問  企業の利益格差は、外部環境 (所属する産業) の違いの みから⽣じるわけではない。 競争戦略論  産業...

ポジショニング・アプローチへの疑問  企業の利益格差は、外部環境 (所属する産業) の違いの みから⽣じるわけではない。 競争戦略論  産業内でも企業間には業績の違いがある。 第13・14回 経営資源と事業戦略  企業が保有する経営資源の違いに注⽬した説明 =経営資源アプローチ(resource-based view) 東洋⼤学 経営学部  実は、経営資源という要素は、ポジショニング・アプロー ⼭⼝ 裕之 チでも少し登場していた。  参⼊障壁 (参⼊できない理由) や、交渉⼒ (交渉材料) 1 2 Resource Based View ポジショニングと経営資源は表裏⼀体  企業間の業績格差の原因を、保有する経営資源の差異に  例に再び戻ると 求める考え⽅  経営資源 → ポジション  優れた資源があるから、占有価値の⼤きい産業で活動できる  経営資源 (resources)  ポジション → 経営資源  能⼒ (capabilities)  その産業だから、特定の資源が⾼く評価される。  コア・コンピタンス (core competence)  企業間で、業績に違いがあるのは、保有している経営資  より適切な説明・理解に近づくためには、両⾯から⾒る必要 源に違いがあるから。 がある。  「どちらが正しいか」や、「どちらが説明⼒があるか」、といっ た問いは、あまり意味を持たない。  Positioning ViewとResource Based Viewは補完関係 3 4 今回の⽬的 RBVの2つの前提  企業の内部要因 (経営資源) から企業の収益性を説明す 1.経営資源の異質性  企業は経営資源の『束』であり。その経営資源は企業間で異なりう る考え⽅︓資源アプローチを理解する。 る。  ヒト (e.g. ⼈材)  モノ (e.g. 設備・⼟地)  その分析枠組の1つである「VRIO」をマスターすること。  カネ (e.g. 資⾦)  情報 (e.g. 技術・ノウハウ・情報・ブランド)  持続的競争優位性をもたらしうる資源の特徴をまとめたフ レームワーク 2.経営資源の固定性  持続的競争優位性︓⻑期間にわたり、業界平均以上の収益を挙  各企業が有する経営資源の⼀部は、模倣が困難か、買おうとしても げている状態 買えない(供給が⾮弾⼒的)である。  →容易に⼊⼿できない  持続的競争優位性の源泉となる資源の特徴  Value・Rareness・Inimitability・Organization  完全競争 (市場) が成⽴する世界とは異なる世界が想定されている。  完全競争が成⽴する条件︓財の流動性と企業の同質性 5 6 持続的競争優位性の源泉 RBVの基本スタンス VRIO Framework(Barney, 1991)  企業は、様々な資源から構成されており、企業間では、持っている資源に違い がある。【経営資源の異質性】 VRIO/VRIN framework  そうした資源の中には、付加価値の創造・獲得を可能にする『価値ある』資源 価値ある資源 Value(価値) がある。 希少な資源 Rareness(希少性)  そうした『価値ある』資源を持つ企業は、他社よりも⾼い利益を挙げ続けるこ 模倣が困難な資源 Inimitability(模倣不可能性) とができる。  ただし、①その資源が『希少』で、②他者の『模倣』が発⽣せず、③他の資源 代替不可能な資源 Non-substitutability(代替不可能性) によって『代替』されない限り。【経営資源の固定性】 そうした資源を活⽤して Organization(組織) 事業活動を展開する組織  持続的競争優位性の源泉となる経営資源︓  価値ある (Value)・希少で (Rareness)・模倣が困難で (Inimitability)・代替が困難な (Non-substitutable) な経営資源 上記が全て満たされる場合、 Sustaining Competitive Advantage  持続的競争優位性を有す (業界平均以上の収益を持続的に挙げる) 企業︓ 業界平均以上の利益率を (持続的競争優位性)  そうした経営資源を保有し、それらを事業活動に活⽤している (Organization)。 持続的に挙げることが可能に 7 1.Value︓価値 1.Value︓価値 戦略的産業要因 (Strategic Industry Factors)  「その経営資源に戦略上の価値があるか︖」  価値のある資源や能⼒は、戦略的産業要因(SIFs: Strategic Industry Factors)と呼ばれる。  Amit & Schoemaker (1993) は、そうした戦略的産業要因に共  価値がない︓戦略的に意味がない資源 通する特徴として、次のシートにある10の特徴を指摘している。 =価値の創造・獲得に役⽴たない資源  こうした資源しか保有しない企業 = 競争劣位  ある資源の価値は、  資源に固有の性質によって決定されるわけではない。  価値がある︓戦略的に意味がある資源  産業や市場の下で決定される。  時間とともに変化する。 =価値の創造・獲得に必要となる資源  その価値は事後的に明らかになる。  こうした資源を保有している企業  仮にそうだとすると、競争優位性の源泉の源泉は、運 =競争同位以上を獲得可能 (serendipity) や起業家精神 (entrepreneurship) に求められるこ ととなる。  事前において資源の価値が不確定であれば、合理的な分析・戦略  →希少性の検討 策定は不可能になるため 9 10 1.Value︓価値 2.Rareness︓希少性 SIFsの⼀般的な特徴 (Amit & Schoemaker, 1993)  産業における企業の収益性の主たる決定要因であると事後的に明らかになるス  その経営資源は、他社があまり有していないという意味で、希 トック的な資源とケイパビリティ。  競合他社や新規参⼊者、顧客、規制、イノベーター、供給業者、他のステーク 少であるか︖ ホルダー間の複雑な相互作⽤を通じて市場レベルで決定される。  希少性はない︓競合他社も保有している  市場の失敗に左右され、ライバル間の競争の基盤となりうるという点で戦略的 である。 = 価値の創造には役⽴つけれど、その獲得(占有)には役⽴たない  SIFの束は時間とともに変化し、事前には明らかでない。 = 他社と同じ事業活動を可能にする資源  その構築には時間・スキル・資本が必要である。それらは特定⽤途に専⾨化さ = 競争同位の源泉 れるようである。  それらへの投資は概して不可逆的である(サンクコストを伴う)。  それらの価値は、時間とともに、低下/上昇する。その変化率も変化する。  希少性もある︓競合他社が保有していない  競合他社によってコントロールされる他の資源やケイパビリティの⼤きさや、 = 価値の創造と獲得に役⽴つ 経営⾏動の範囲によって、その蓄積ペースは影響を受ける。その構築を容易に 迅速化することはできない。 = 他社とは異なる事業活動を可能にする資源  ある企業にとってのその価値は、他の要素に対するコントロールに依存する (補完的特性)。 = 競争優位の源泉(=必要条件)  その構築や相互作⽤のすべての側⾯が明らかであったり、コントロール可能な わけではない。  →模倣可能性の検討に 11 12 2.Rareness︓希少性 3.Inimitability︓模倣不可能性 資源の希少性を作り出す戦略  事業活動を営む上で必要な資源を先取し、  (価値があり、希少な) その経営資源は、競合他社に  ⽣産・流通・販売といった活動に必要な資源=SIFs とって模倣が可能/容易か︖  模倣不可能性が低い︓競合にとって模倣が容易 = 価値の創造と獲得に⼀時的に役⽴つ  その資源をライバル達が⼿に⼊れられないようにするこ = 収益性に勝る事業活動を⼀時的に可能にする資源 とで、 = ⼀時的競争優位性の源泉 (sources of temporary competitive advantage)  その事業活動において独占状態を作り出す。  模倣不可能性が⾼い︓競合他社にとって模倣が困難 = 価値の創造と獲得に⻑期にわたって役⽴つ = 収益性に勝る事業活動を持続的に可能にする資源 = 持続的競争優位性の源泉 (sources of sustainable competitive advantage) 13 14 3.Inimitability︓模倣不可能性 3.Inimitability︓模倣不可能性 模倣不可能性を左右する要因 ① 歴史的な経緯の必要性  価値・希少性を有する資源は、時間の経過と供に他社に  経路依存性︓path dependency 模倣されることで、その希少性が失われていく。  資源の獲得・構築に時間や過去の経緯が不可⽋な場合  ただし、次の特徴を有する資源の場合、その模倣は困難 である  =時間圧縮の不経済性  模倣不可能性を左右する要因  いくらカネを投じても、その時間を圧縮することはできな ① 歴史的な経緯 い。 ② 因果関係の不明確さ  年1000万円の研究開発投資を10年間続けて得た技術⼒ > 1億円を投じて1年で得た技術⼒ ③ 社会的障壁(特許など)  暗黙知 (tacit knowledge) は、試⾏錯誤的 (learning by ④ 他の資源との結合(特異性・専⾨性) doing) にしか獲得できない  信頼やブランド、組織⽂化や、価値観、ルーティンなども ⑤ 模倣による既存資源の無効化の⾒込み 15 16 3.Inimitability︓模倣不可能性 3.Inimitability︓模倣不可能性 ② 因果関係の不明確さ︓因果関係と模倣 ③ 社会的障壁  収益性に影響を与えている (価値・希少性を有する) 資  ある種の資源は、その⾃由取引 (流動性) が不可能で 源が特定されなければ、模倣は困難 あったり、政府によって制約されていたりする。  「市場の失敗」に陥りやすい特性を持つ財=資源  免許・認可(外部性および⾮対称性の問題から)  競争優位性を左右する経営資源は、常に具体的な形で特 定できるわけではない。  知的財産権(外部性の問題から)  ④の理由とも関連している。  市場取引が困難 (⾮対称性の問題から) 資源A  そうした資源は、獲得しようとしても獲得できない。も 事業パフォーマンス しくは、先⾏者と⽐べ不利な条件でしか獲得できない。 =競争優位性 資源B 17 18 3.Inimitability︓模倣不可能性 3.Inimitability︓模倣不可能性 ③ 社会的障壁︓特許 ④ 他の資源との結合  特許の存在は、他社の模倣コストを⾼める  事業活動と経営資源の関係  ただし、その効果は産業間で異なる(Levin et al. 1987)  医薬品産業 約40%UP  経営資源の束によって事業活動は展開されている。  化学産業 約25%UP  半導体産業 約7〜15%UP  また、特許は絶対的な防御壁にはならない  127産業中115産業において、特許に守られた新製品が模倣されている(Levin et al., 1987)  単独で機能する資源はほとんど存在しない。  全特許のうち、60%については、その特許を侵害しない新技術が、特許発効から4年以  他の資源と「結合」することで機能している。 内に出現している (Mansfield, 1986) 特許の取得にもコストがかかる。   事業活動に役⽴つ形で模倣するには、関連する資源も  →費⽤対効果を考えることが重要  特許出願に伴う情報開⽰が模倣のシグナルとなる場合も (さらにはその結びつき⽅も含めて) 模倣する必要がある。  特許数≠技術⼒  トヨタの「トヨタ⽣産⽅式」︓カンバン⽅式 + α 19 20 3.Inimitability︓模倣不可能性 4.Organization︓組織 ⑤ 模倣による既存資源の無効化  事業活動の遂⾏において、特定の経営資源は、他の経営  その経営資源の可能性を引き出せるような、組織が存在 資源と密接に関連している するか︖  価値・希少性・模倣困難性を備えた経営資源を活⽤した事 業活動が展開できるか否か︖  特定の経営資源を獲得・利⽤することによって、既存の 経営資源や、その機能、さらには現在の事業活動が破壊 されたり、無効化される場合がある  経営資源を最⼤限活⽤できる組織がない  価値の創造と獲得に役⽴つ資源が存在したとしても、価値 の創造と獲得に必要な事業活動が展開できない。  こうした⾒込みが存在する場合「模倣のジレンマ」が⽣ じうる  技術的に模倣可能だが、模倣できない  経営資源を最⼤限活⽤できる組織がある  価値の創造と獲得に役⽴つ資源を活⽤して、事業活動を展  模倣したくても、模倣できない 開することができる。 21 22 4.Organization:組織 4.Organization:組織 resource, service, capability, competence resource, service, capability, competence  経営資源の⽤途・機能は多様  経営資源は、多様な潜在⽤役 (service) を備えている。 事業活動  活⽤されてはじめて経営資源は意味を持つ。  価値・希少性・模倣困難性を備えた経営資源を保有していても、それが 存在するだけでは無意味 ケイパビリティ  経営資源 (resource) から⽤役 (service) が引き出される必要がある (capabilities) 資源 コンピテンス 外部  特定の経営資源から引き出された⽤役を組み合わせることで、事業 (resources) 展開 (competences) 環境 活動は展開される。  経営資源から⽤役を引き出し、それらを組み合わせて事業活動を可能に する能⼒=capability  事業活動レベルでの能⼒=competence  e.g. 魅⼒的な商品を開発する (ことができる) 能⼒ 23 24 4.Organization:組織 4.Organization:組織 競争優位の源泉︓ケイパビリティ 競争優位の源泉︓ケイパビリティ  ケイパビリティ  暗黙的なノウハウ・ルーチン・⽂化・価値観などと呼ばれる何か (ケイパビリティ) は、模倣不可能性をもたらす下記の要因をほぼ全  暗黙的なノウハウ (tacit know-how) て備えている  ① 歴史的な経緯  ルーティン (routine)  時間をかけて蓄積・育まれる(learning by doing)  ⽂化 (culture)  ② 因果関係の不明確さ  暗黙的な何か  価値観 (value)  ③ 社会的障壁  などと呼ばれる「何か」によって構成される。  暗黙的であるため、市場取引が困難  「〜社らしさ」と表現される「何か」。  ④ 他の資源との結合(特異性・専⾨性)  特定の企業・事業活動・経営資源に適合的な形で蓄積されていく  ⑤ 模倣による既存資源の無効化の⾒込み  事業活動や資源と密接に結びついているため、これを変えると事業活動や  これらは、組織や個⼈の中に埋め込まれており、組織の 資源を変更する必要が⽣じる 成員による⼀連の⾏為を調整して、予測可能な⼀定の組 織的活動パターン (=事業活動) の実現を可能とする。  持続的競争優位性の源泉でもある 25 26 ケイパビリティの硬直性 ケイパビリティの硬直性 core rigidity (Leonard-Barton, 1992) core rigidity (Leonard-Barton, 1992)  外部環境に適合的な事業活動を展開する努⼒の結果、強固なケイパ ビリティが構築されていく。 事業活動  そうしたケイパビリティは、組織や個⼈に深く埋め込まれていく。  ケイパビリティは、組織や成員に埋め込まれることで、現在の事業 ケイパビリティ 活動の有効性・効率性を⾼める効果を持つ。 (capabilities)  外部環境が劇的に変化する場合、現在の外部環境に最適化している 資源 コンピテンス 外部 (resources) 展開 事業活動およびケイパビリティはその有効性/効率性を失う。 (competences) 環境  さらに、ケイパビリティは、組織や個⼈に埋め込まれているため、 その変更が困難である。  企業が直⾯するジレンマ  現在の外部環境下での競争優位性  堅固なケイパビリティを構築している企業ほど、外部環境の劇的な 変化に柔軟に対応できない。  外部環境の変化に対する柔軟性 27 28 ダイナミック・ケイパビリティ(⼀応) まとめ︓持続的競争優位性の源泉 Dynamic Capabilities VRIO Framework(Barney, 1991)  ダイナミック・ケイパビリティ (DCs) VRIO/VRIN framework  外部環境の変化に応じて、資源 (ケイパビリティ含む) を⽣成・再編す る能⼒ 価値ある資源 Value(価値)  感知 (sensing) → 捕捉 (seizing) → 再構成 (reconfiguring)  organizational dynamic capabilities 希少な資源 Rareness(希少性)  dynamic managerial capabilties 模倣が困難な資源 Inimitability(模倣不可能性)  メタ・ダイナミック・ケイパビリティ 代替不可能な資源 Non-substitutability(代替不可能性)  ダイナミックケイパビリティを⽣成・再編する能⼒ そうした資源を活⽤して Organization(組織) 事業活動を展開する組織 事業活動 D.D.C. ケイパビリティ 上記が全て満たされる場合、 (capabilities) Sustaining Competitive Advantage D.C. 業界平均以上の利益率を (持続的競争優位性) D.D. 資源 コンピテンス 外部 持続的に挙げることが可能に D.C. (resources) 展開 (competences) 環境 29 VRIOを⽤いた分析例︓個⼈の競争優位性 前回と今回のまとめ  実践的なスキルという資源  企業が儲かる理由について、  価値 → ある  ポジショニング・アプローチ  希少性 → 低い︖ 競争同位の源泉  企業の外部環境要因(産業構造)から説明  模倣可能性 → ⾼い︖ 補完関係  しかし、他の経営資源との組み合わせや、新しい活⽤⽅法 によって、企業に競争優位性をもたらすことがある。  資源アプローチ  ← 新⽤役を引き出すために必要な他の経営資源  企業の内部要因(経営資源)から説明  = 持続的競争優位の源泉  VRIOフレームワーク  価値(V)・希少性(R)・模倣不可能性(I)・組織(O)  この4条件をそろえた経営資源 = 持続的競争優位性の源泉  インターネット・システム  松井証券  楽天・Amazon 31 32

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