2024年11月29日 免疫科学第9回 腸管免疫 PDF

Summary

2024年11月29日、信州大学で実施された第9回の免疫科学講義資料。資料は「腸管免疫と腸内細菌」をテーマに、腸管免疫系、病原体、腸内細菌、免疫寛容などに関する内容がまとめられています。

Full Transcript

2024年11月29日(金)2時限目 免 疫 科 学 第9回 腸管免疫と腸内細菌 動物資源生命科学コース・食品生命科学分野 田中 沙智 E-mail: [email protected] C棟1F(C103室) 授業計画 第1回 免疫学の概念と歴史(10/4) 第2回...

2024年11月29日(金)2時限目 免 疫 科 学 第9回 腸管免疫と腸内細菌 動物資源生命科学コース・食品生命科学分野 田中 沙智 E-mail: [email protected] C棟1F(C103室) 授業計画 第1回 免疫学の概念と歴史(10/4) 第2回 免疫系の組織・器官(10/11) 第3回 免疫系に関わる細胞群(10/18) 第4回 自然免疫のしくみ(10/25) 第5回 補体系(11/1) 第6回 獲得免疫のしくみ(T細胞の分化と機能) (11/8) 第7回 獲得免疫のしくみ(B細胞の分化と機能) (11/15) 第8回 中間テスト、サイトカイン(11/22) 第9回 腸管免疫(11/29) 第10回 自己免疫疾患(12/6) 第11回 感染免疫・ワクチン(12/13) 第12回 アレルギー(12/20) 第13回 腫瘍免疫(12/27) 第14回 食品免疫(1/10) 第15回 免疫老化、授業アンケート(1/24) 第16回 期末試験(1/31) 突然ですが、 お腹に良いことしていますか? お腹の調子が悪くなる時はありませんか? お腹の調子に与える影響~食べ物 お腹の調子が悪い 痛み、下痢や軟便、便秘 消化不良、お腹の張り など 原因~生活環境の変化、ストレス、 睡眠不足、薬、病気など 腸は内なる外である 腸内には、 1000種類以上、38兆個以上の腸内細菌が 生息していると言われています。 便秘・下痢 免疫力UP 肥満 太りにくい 腸炎 若返り アレルギー 精神の安定 がん 本日の講義内容 1. 腸管免疫の概要 2. 腸管における疾患 3. 腸内細菌について 4. 腸内細菌と疾患の関連 腸管免疫の特徴 腸管免疫系は最も大きな免疫系である。 →免疫系全体の60%の細胞や抗体から構成されている。 消化管はユニークな免疫系を構築している 消化管はさまざまな微生物 日常的に接する無害な食物や腸内 の侵入という危険に常にさ フローラに対しては不必要に免疫 らされている 応答しないよう制御する必要がある 病原体の排除 経口免疫寛容 強い免疫活性を 抑制能の強い免疫細胞 もつ免疫細胞 バランス 病原体の排除 粘膜に存在する粘液(杯細胞) 抗菌ペプチド(パネート細胞) パイエル板での免疫反応 →樹状細胞-T細胞による免疫制御 →B細胞からの抗体産生 抗体による中和(特にIgA)~粘膜層で行われる パイエル板での抗体産生誘導メカニズム (DC-T細胞を介した経路) 抗原 M細胞 抗原がM細胞により取り込まれる ↓ DC 樹状細胞によるT細胞への抗原提示、 B B B 濾胞 サイトカイン産生 B T ↓ T B B B 胚中心でB細胞が増殖・クラススイッチす 胚中心 ることによりIgAが産生される。 ↓ IgA陽性B細胞は、腸間膜リンパ節に移行 B B B ↓ B 粘膜固有層にホーミングしたIgA陽性B細 B B B 胞は、さらに形質細胞へと分化してIgA二 量体(分泌型)を産生。 IgAの役割 ・ 病原菌の腸管粘膜からの侵入阻止、毒素の中和 パイエル板での抗体産生誘導メカニズム (B細胞を直接刺激する経路) 抗原 M細胞が抗原を取り込む ↓ M細胞 直下のB細胞に抗原を受け渡す ↓ B細胞の活性化・増殖 ↓ B B B 腸間膜リンパ節、粘膜固有層に B 移行 濾胞 ↓ B 形質細胞に分化 胚中心 B ↓ B 抗体(IgA)を産生 形質細胞に分化→IgAの産生 病原体の排除に関わる免疫細胞~IEL 腸上皮間リンパ球(intraepithelial lymphocyte:IEL) おもにCD8+T細胞とT細胞。細胞傷害活性をもち、ウイルスなど に感染した上皮細胞にアポトーシスを誘導することにより感染の拡 大を防いでいる。 病原体の排除に関わる免疫細胞 ~IL-17産生細胞 Th17細胞 IL-17を産生。 転写因子はRORt。 IL-17の機能 上皮細胞を活性化し,抗菌ペプチドの産生を促進。 →粘膜のバリア機能亢進。 好中球の遊走を促進→感染防御 過剰なIL-17産生は腸炎などを引き起こす。 ヘルパーT細胞およびILCによる病原体の排除 ILC(Innate lymphoid cells;自然リンパ球) 抗原受容体をもたないリンパ球で、粘膜バリア機能の維持や感染初期応答に重要。 NCR(NK cell receptor):陽性細胞からはIL-22が産生される。 経口免疫寛容に関わる細胞~Treg 制御性T細胞(Treg)はIL-10やTGF-βを産生する。 転写因子Foxp3を発現する。 腸内での炎症や、有害で過剰な免疫応答を抑制する。 免疫寛容(Immune torelance) 特定抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のこ とを指す。 T細胞の末梢性寛容 1.抑制性T細胞によるサプレッション Tregからの抑制性サイトカイン(IL-10、TGF-)の産生 2.Activation induced cell death:AICD(活性化誘導性細胞死) 活性化したT細胞がアポトーシスを起こして死滅する 3.アナジー 抗原のシグナルが入らない、もしくは不完全であり、 反応しない状態になること。 腸管免疫に関する動画紹介 (1) Immunology in the Gut Mucosa - YouTube 本日の講義内容 1. 腸管免疫の概要 2. 腸管における疾患 3. 腸内細菌について 4. 腸内細菌と疾患の関連 炎症性腸疾患(IBD)とは 潰瘍性大腸炎 クローン病 原因は不明~遺伝性?食環境の変化? 根治療法は確立されていない。 症状が良くなったり、悪くなったりを繰り返すことが特徴。 潰瘍性大腸炎の医療受給者証および 登録者証交付件数の推移 調査開始時の1975年時点で965人だったものが、2014年には17万781人まで増加しています。2018 年には12万4,961人、2020年には14万574人と減少しているようにみえますが、これは2015年1月以 降医療受給者証の認定基準が変更になったためで、実際の患者数は依然増加傾向にあります。 腸管における炎症~DSS誘導大腸炎 マウスに1.5~3%のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲水させて、 大腸炎を引き起こす。 生存率 体重減少 給水瓶 1.5~3%DSS 大腸の長さ 評価項目 生存率、体重減少 大腸の長さ 病理 病理組織学 炎症マーカー 大腸がん 大腸がんの罹患率、死亡率が ともに増加している マウスの大腸発癌モデル アゾキシメタン(AOM)を10mg/kgで腹腔内投与 ↓ 1週間後に3%のDSSを1週間飲水 ↓ BALB/cマウス 8週間後に腫瘍を確認できるようになる 大腸の外観、組織図 Normal AOM/DSS 本日の講義内容 1. 腸管免疫の概要 2. 腸管における疾患 3. 腸内細菌について 4. 腸内細菌と疾患の関連 ヒトの腸内細菌 ヒトの腸内には一人当たり1000種類以上、38兆個以上の腸内細菌が生息して おり、糞便のうち、約半分が腸内細菌またはその死骸であると言われている。 成人一人に存在する腸内細菌の重量は約0.2kg。 善玉菌 悪玉菌 日和見菌 割合 10~30% 10~30% 50~80% 菌の種類 ビフィズス菌 ウェルシュ菌 連鎖球菌 乳酸菌 ブドウ球菌 大腸菌(無害株) 大腸菌(有害株) 機能 消化吸収の促進 腸内腐敗 健康時は何も 腸内発酵 発がん性物質の生 しない 免疫調節 産 身体が弱ると、悪 感染防御 ガス発生 さをする 毒素の生産 ヒトの腸内細菌叢の特徴 腸内細菌の分布→口腔の唾液中~108/ml、胃~103/g以下、 小腸~107/g以下、大腸~1011/g以上 胎児では無菌状態→生後数時間で腸内に細菌が定着する。 生後まもなくは、ビフィズス菌が多い。 ヒトはそれぞれ特有の菌叢構成をもっており、安定している。 抗菌性物質の投与、食べ物、ストレスなどにより、腸内細菌 叢の構成に変化が生じる。 加齢に伴う腸内細菌叢の変化 加齢とともに、善玉菌が減って、悪玉菌が増加する。 食品による腸内細菌の制御と健康効果 脂質やタンパク質の多い食事は 控えることが重要! 腸内細菌由来の短鎖脂肪酸 善玉菌は、炭水化物(オリゴ糖、食物繊維など)をエサとして分解 し、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)をつくる。 本日の講義内容 1. 腸管免疫の概要 2. 腸管における疾患 3. 腸内細菌について 4. 腸内細菌と疾患の関連 腸内細菌と疾患 腸内細菌とアレルギー Nature Medicine 20, 159–166 (2014) doi:10.1038/nm.3444 Gut microbiota metabolism of dietary fiber influences allergic airway disease and hematopoiesis 腸内微生物相による食物繊維の代謝はアレルギー性気道疾患と造血に影響する 高繊維食(ペクチンを30%含む)を与えられたマウスでは血中のSCFA濃度が上昇。 →SCFAの一種であるプロピオン酸は、DCやマクロファージの分化を促進 →Th2の分化は抑制 →さらにプロピオン酸によるアレルギー抑制効果は、G protein–coupled receptor 41 (GPR41)を介していることをノックアウトマウスを用いて証明。 腸内細菌による抗肥満効果 ワシントン大学が人やマウスで行った研究では、肥満型の個体と正常 型の個体の間では、腸内フローラに以下のような異なる特徴がある。 →やせ菌とデブ菌が存在 正常型の腸内フローラの特 徴: バクテロイデス門が多く、ファーミ キューテス門が少ない 肥満型の腸内フローラの特 徴:ファーミキューテス門が多く、 バクテロイデス門が少ない 腸内細菌と肥満・がん Nature. 2013 Jul 4;499(7456):97-101. doi: 10.1038/nature12347. Epub 2013 Jun 26. Obesity-induced gut microbial metabolite promotes liver cancer through senescence secretome. 肥満が誘発する腸内細菌代謝産物が、細胞老化関連分泌表現型を 介して肝がん発症を促進する 1次胆汁酸が腸内細菌(グラム陽性 細菌)により2次胆汁酸に変換 ↓ IL-1βを介して、肝細胞より Senescence-associated secretory phenotype (SASP)が分泌 ↓ 肝がんが発症する 本日の講義のポイント 確認 1. 腸管免疫の特徴 2. 免疫寛容とは 3. 腸内細菌の分類3つ 4. 腸内細菌と疾患の関わり

Use Quizgecko on...
Browser
Browser