企業戦略論 第8〜10回 複数事業のマネジメント:PPM PDF

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東洋大学 経営学部

山口裕之

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PPM 企業戦略論 経営学 事業ポートフォリオ

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この資料は、複数事業のマネジメント手法であるPPMについて解説しています。PPMの意義、予算配分の基本方針、PPMを読み解く仮定、シナリオ基本図などを含みます。

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ここまでの復習  企業には、成⻑が求められる。  事業領域の拡⼤ (多⾓化と垂直統合) 企業戦略論  しかし、事業は製品ライフサイ...

ここまでの復習  企業には、成⻑が求められる。  事業領域の拡⼤ (多⾓化と垂直統合) 企業戦略論  しかし、事業は製品ライフサイクルに応じて、いずれ衰 第8〜10回 退期を迎える。 複数事業のマネジメント︓PPM  複数の事業をマネジメントする必要性  リスクヘッジ  事業が衰退期を迎えるまえに、成⻑期の事業に進出する必要が 東洋⼤学 経営学部 ある。 ⼭⼝裕之  成⻑機会の追求 1 2 今回の⽬的 PPMの意義  事業ポートフォリオのマネジメントに役⽴つツールをマ  殆どの企業は、複数の事業を営んでいる。 スターすること。  経営資源(ヒトやカネなど)は無限ではない  使いこなすためには、意味を理解することが必要条件 →「選択と集中」  有限である「カネ (キャッシュ)」を事業間でどう配分す るのか。  製品ポートフォリオ・マネジメント  どの事業がカネを稼ぎ出しているのか。  どの事業がカネを必要としているのか。 PPM︓Product Portfolio Management  この問題を考える際に有⽤なツール=PPM 3 4 予算配分の基本⽅針 PPMとは…  保有している事業の ① 独⽴採算制  相対市場シェア  横軸での位置 ≒ 競争⼒ ② 前年度⽐ベース  市場成⻑率  縦軸での位置 ≒ 将来性・成⻑性 ③ 積み上げ式  売上規模  円の⼤きさ ≒全社へのインパクト を図式化したもの  「カネ」という資源配分の判断材料 5 6 キャッシュ状況 特徴的なネーミング どの事業でカネが余っている/⾜りないのか 生み出されるキャッシュ 使われるキャッシュ ネット 高 ++++ + ---- ---- 市 +or- --- 場 成 長 率 ++++ + 低 - - +++ +or- 高 相対シェア 低 7 8 PPMを読み解く仮定 シナリオ基本図︓スタート地点 仮定(1):相対市場シェアが大きい 花形製品 Star 問題児 Problem Child ほど,生み出されるキャッ Wildcat 高 Question Mark 仮定(1) シュは多い 仮定(2)・(b) 高 仮 仮定(2):売上高を高めるには,生 市 定 仮 定 産設備や運転資金の追 市 場 ( 2 場 ( 成 10 3 加が必要である 成 ) (a) ・ ) % 長 =キャッシュが必要 長 カネの成る木 Cash Cow 負け犬 (a)縦軸の上の方に位置する Dog 率 率 低 事業ほどキャッシュが必要 仮定(1) (b)横軸を左に移動するには キャッシュが必要 低 高 ×1.0 低 仮定(3):成長率は自然に低下して いく 相対市場シェア 高 相対シェア 低 9 10 PPMのシナリオ 事業単位ごとの戦略指針 キャッシュ 構築せよ Build 花形製品 問題児 Star Problem Child Wildcat 現金化 高 Question Mark 花形製品 問題児 Star Problem Child 現金化 Wildcat Question Mark 高 市 場 キャッシュ 成 長 カネの成る木 維持せよ 市 Cash Cow 負け犬 Dog 場 成 カネの成る木 資金回収せよ 率 Hold 長 Cash Cow 負け犬 Withdraw Dog 率 現金化 低 低 高 相対シェア 低 高 相対シェア 低 収穫せよ Harvest 11 12 PPMの各セルの意味 収益性 必要な投資 ネット 推奨される 【横軸】 【縦軸】 キャッシュフロー 事業戦略 花形 ⾼い ⼤きい ゼロ〜 構築 or 保持 若⼲マイナス PPMの理解 ⾦のなる⽊ ⾼い ⼩さい ⼤きくプラス 保持 問題児 低い/ ⾮常に⼤きい ⼤きくマイナス 構築 マイナス 投資しない 若⼲のプラス 収穫/撤退 負け⽝ 低い/ 投資しない プラス/ 収穫 / マイナス マイナス 撤退 1.【横軸】収益性 ← 事業の競争⼒ ← 相対市場シェア 2.【縦軸】必要な投資額 ← 製品ライフサイクル ← 市場の成⻑性 13 14 各企業の相対市場シェアを 1.【横軸】相対市場シェア≒収益性 計算してみよう(2006年の液晶パネル)  相対市場シェア 順 シェア % 相対市場シェア =⾃社事業のシェア/最⼤競争相⼿企業の事業のシェア 位 (売上高ベース) サムスン電子(韓) 1 20.1  ⾃社がトップシェアである場合 LGフィリップスLCD(韓) 2 16.1 → ⾃社のシェア/2番⼿企業のシェア 友達光電(台) 3 15.7 → 横軸で1.0以上(PPMの図で左側)になる シャープ(日) 4 10.4 寄美電子(台) 5 8.9  ⾃社がトップシェアでない場合 → ⾃社のシェア/⾸位企業のシェア 『市場占有率2008年版』日経産業新聞編 → 横軸で1.0以下(PPMの図で右側)になる 小数点第3位を四捨五入してください。 15 16 1.【横軸】相対市場シェア≒収益性 規模と学習の経済性  相対市場シェア≒収益性 ① 規模の経済性  相対市場シェアが⾼いほど、収益性は⾼い  ⽣産(販売)量が⼤きいほど、より安く製品・サービスを 製造・販売することができる ② 学習の経済性  どうして『≒』になるのだろうか  累積⽣産量が⼤きいほど、より安く製品・サービスを製 造・販売することができる  業界⾸位であることによるブランド⼒  ⼤規模化するほど(=トップシェアであるほど、ライバ  業界⾸位であることによるコスト競争⼒ ルよりも売上が⼤きいほど)、ライバルよりも安く製品  規模の経済 を作ることが出来るようになる。  学習の経済 17 18 コストリーダーシップ戦略 2.【縦軸】市場成⻑率≒必要な投資額 導⼊期 成⻑期 成熟期 衰退期 学習の経済性 累積生産量が大きい 成⻑率 △→○ ○ △ × (経験曲線効果) 売上 × ○ ○ ○→× 費用低下 利益増大 必要な投資額 ○ ○ △ × 生産量が大きい 規模の経済性  PPMの縦軸と製品ライフサイクルとの関連  導⼊期→成⻑期(上昇) 投資  成熟期→衰退期(下降) 市 場 成 長  積極的に規模を拡⼤することで、上のサイクルを回していく 率 19 20 PPMの理論的背景 【横軸】  相対市場シェア 高 競争地位の改善  規模・学習の経済 PPMの作図 市 場 成(10%) 産業の成熟 【縦軸】 長 に伴う転換  市場成⻑率 率 低  製品ライフサイクル 高 (1.0) 低 相対市場シェア 21 22 PPMの描き⽅ PPMの描き⽅ (2) 相対市場シェア・市場成⻑率の算出 (1) 分類を区別する境界値の設定︓枠を書く (3) 各事業の位置を算出  ⼀般的には、  相対市場シェア  市場成⻑率は10%、 =⾃社事業のシェア/最⼤競争相⼿の事業シェア  相対市場シェアは1.0で、  ⾼/低の境界が引かれる場合が多い。  市場成⻑率 = (当該年度の全体市場-前年度の全体市場)  しかし、これらの数字は絶対ではない。 /前年度の全体市場×100  (常識の範囲内)で任意に設定可能。  なお、数年間の平均成⻑率を⽤いる場合もある(単年度の ばらつきの影響を回避するため)。  平均成⻑率を求める際には、幾何平均が⽤いられる。 23 24 (4) 売上⾼⽐率の算出 (5) 円の半径⽐率の算出 PPMの描き⽅ (6) 円の半径の算出 (7) 円を描く  売上⾼⽐率の求め⽅  市場成⻑率と相対  基準とする事業の売上⾼を1とおく。 市場シェアに関し 高 → 今回、基準とする事業は「電卓事業」 て、円の中⼼をプ  対象とする事業の売上⾼を基準とする事業の売上⾼で割る。 ロットする。 ・ ・  なお、相対市場 市  円の半径⽐率 シェアは対数軸で 場  売上⾼の⼤きさ=円の⾯積=半径^2×π あることに注意︕ 成 (10%)  半径⽐率=√円の⾯積⽐率 = √売上⾼⽐率 長 率  円の半径  その点を中⼼とし  基準とする事業の円の半径を r とおくと て、求めた半径の 低 ・ → 今回、基準とする事業の円の半径は20㎜とおく 円をコンパスで描  r×半径⽐率 =対象とする事業の円の半径 く。 高 (1.0) 低 相対市場シェア 25 26 PPMの応⽤(1) PPMの⽬的と注意点 全社的な競争戦略の検討単年度︓他社と⾃社の⽐較  PPMの作図は⽬的ではなく、あくまで⼿段。 A社 B社 X X  保有する事業群の現状を読み取ったうえで、  相対的な(コスト)競争⼒(横軸での位置)  ライフサイクルの段階(縦軸での位置)  規模(円の⾯積) Y Y  将来を⾒据えて、どの事業に経営資源(カネなど)を重点的 に配分していくのかを考えることが⽬的。  キャッシュの移転︓ ⾦のなる⽊ → 花形・問題児 など  多⾓化の理由  リスク分散  成⻑機会の追求 多点競争(multipoint competition)  経営資源の有効活⽤(財務シナジー) 27 28 PPMの応⽤(2) PPMの応⽤(3) 全社戦略の評価全︓事業の動向(複数年度) 全社戦略の評価︓各事業の動向(複数年度) 1985 1つ1つの事業について ①たとえば,5年前の図と較べて ・数年ごとに 1990 ・期待した方向に, ・そのたどってきている軌跡を ・期待した通りに 描き, 事業部がヨコに移動したり, ・適切なマネジメントがなされているか 成長率が維持されたりしたか? 1995 問題が生じていないかをチェック ②5年前と較べて, より望ましいPPMになっているか? 2000 ★もちろんこの図をベンチマーク相手についても描き,何がどう違うのかを考える契機とするのも良い 29 30 PPMの問題点(1) PPMの各セルにおける 解読に際する仮定の妥当性 正のキャッシュフロー事業の⽐率  相対市場シェア=キャッシュ⽣成量 ← ︖  PIMS調査のデータから  相対市場シェア=1.0で区切る場合、トップ企業しか利益 が出ないということになる。  負け⽝や問題児がキャッシュを⽣む場合もある。 花形 問題児  売上増⼤(⾼成⻑率)=キャッシュ消費量 ←︖ 72% 54%  製品分野毎の状況に応じて異なる ⾦のなる⽊ 負け⽝  成⻑率は⾃然に低下 ←︖ 74% 59%  成熟したと皆が考えることで、成熟が早まったり、  成熟しないと皆が考えることで、成熟が回避されることも ある。 31 32 PPMの問題点(2) ⽣じうる現象 市場の定義 本来,仮定では,  市場シェアは市場の定義によって左右されるので、実際 1985 ①SBUを左右に動かすのは「意志」 には客観性に⽋ける。 ②SBUを上下に動かすのは「自然」 だったのだが, 2000 (1)現実には,成長率は自然に,  e.g. 1990 再び上昇に転ずることがある  スズキ⾃動⾞にとって、 (2)また,大規模企業が真剣に考えて  ⾃社の製品を、⾃動⾞市場で位置づけるか、軽⾃動⾞市場で位 1995 市場浸透等の政策を打てば, 置づけるかによって、 市場全体が大きくなる可能性もある  PPMの図は異なる (3)技術革新によって脱成熟化が 生じることもあり得る(ウォッチ) ★だから意図的にSBUを上に上げる という戦略もあり得る. 33 34 PPMの問題点(3) PPMの問題点(4) 思考法の問題 実⾏可能性の問題  事業間の財務的な(キャッシュについての)関係だけを  事業の売買が簡単ではない場合,PPMの定⽯通りの事業 考慮しており、その他の相補効果・相乗効果が考察の対 展開は難しい 象から外れている。  PPMの定⽯通りに経営すると,  経営資源の有効活⽤ ① ⾦のなる⽊の事業部には、不満が溜まる  財務シナジー  資源シナジー(⼈材や技術) ② 問題児の事業部には、過保護→⽢えが⽣じる  戦略シナジー(競争における事業間の連携) 35 36 PPMの⼿法について PPMの利点 最後に⼀⾔ (1) 実践的メリット  1.事業をポートフォリオで考える. ○ ①選択的投資︓2ステップの選択  すべてを1つの事業で満たし続けるのは難しい ②⻑期志向︓「健全な⾚字部⾨」の重視 (成⻑と利益,学習と利益,⼈材獲得と利益等々) ③シナリオ志向︓キャッシュのみとはいえ,⼿段→⽬的 の時間展開を描く志向性強い  2.時間展開を考慮し,シナリオにつながり安い ○  できればカネ以外の点でも, (2) 理論的貢献 ① ポートフォリオ ① 横軸=経営資源,② 縦軸=環境,③ ⽮印=時間 ② 相互連携の時間的パターン(準備と展開)  ⾃社の経営資源の強みと弱みと,環境の機会と脅威とを, 等を考える初めの⼀歩とするべき ダイナミックに適合させていく,という戦略の定義その もの 37 38

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