第1単元講義資料 衛生薬学F 環境衛生科学B PDF

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This document is a lecture material on public health and environmental health, focusing on concepts such as ecosystem and microbiology. The topics covered include definitions, methodologies and examples, and some key concepts are briefly introduced.

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第1単元講義資料 衛生薬学F(環境衛生科学 B) 1. 公衆衛生と環境衛生 1)衛生とは “衛”とは保護して守ることであり, “生”とは生命や生活のことである 2)公衆衛生(public health)の定義 ウインスローによる定義(1920 年) 公衆...

第1単元講義資料 衛生薬学F(環境衛生科学 B) 1. 公衆衛生と環境衛生 1)衛生とは “衛”とは保護して守ることであり, “生”とは生命や生活のことである 2)公衆衛生(public health)の定義 ウインスローによる定義(1920 年) 公衆衛生とは,組織化された地域社会の努力により,疾病を予防し,寿命を延長し,身体 的・精神的健康と能率の増進をはかる科学であり,技術である その努力の内容は環境の整備,感染症の予防,個人の衛生教育,疾病の早期診断と治療のた めの医療介護サービスの組織化,および人々の健康保持に必要な生活水準を保証する社会的 機構の展開である ラストによる定義(1995 年) 公衆衛生とは,人々の健康を守り,増進し,回復させるために社会によって組織化された取 組みの一つである。公衆衛生は,集団的および社会的な活動を通じて,すべての人々の健康 を維持・向上させることを目的とした科学,技術および信念の組み合わさったものである 公衆衛生の学問分野 ・全集団を対象とするもの 疾病(感染症・生活習慣病)予防,公衆栄養,食品衛生,環境衛生,精神保健 ・年齢別集団を対象とするもの 母子保健,成人保健,老人保健 ・社会別集団を対象とするもの 産業保健,学校保健 ・制度や統計などを対象とするもの 保健医療制度,社会福祉,衛生行政,保健衛生統計,疫学,健康教育 第1単元:環境汚染と微生物(第1章) 第2単元:環境汚染の実態(第2章) 第3単元:環境汚染物質の体内動態(第3章) 第4単元:廃棄物処理と環境保全(第9章,第 10 章) 3)健康(health)の定義 WHO(世界保健機関)憲章(1946 年) 健康とは,疾病,虚弱でないというだけでなく,身体的にも,精神的にも,社会的にも完全 によい状態であることをいう 消極的健康から積極的健康へ 健康に対する考え方は,疾病でないことを健康とするもの(消極的健康)から,理想的な健康 状態を維持・増進させるもの(積極的健康)へと変化してきている 1 2. 環境汚染と微生物 2-1. 環境と環境要因 1)環境とは 生物(特にヒト)の生活に何らかの影響を与える外界因子の全てのもの,つまり生物を取り 巻く環境因子の全てが総合されたもの 2)環境因子 無機的環境因子(物理的環境因子,化学的環境因子) 温度,光,空気(O2,CO2 など) ,栄養塩類,土壌,水など 病因 宿主 有機的環境因子(生物学的環境因子) 同種や異種の生物(動植物,微生物など) 環境 3)環境作用と環境形成作用 環境作用(作用) 温度や光などの無機的環境因子が生物(有機的環境因子)に影響を与えること 環境形成作用(反作用) 生物(有機的環境因子)が活動することによって,無機的な環境に影響を与えること 2-2. 生態系とその機能 1)生態系(Ecosystem) ある地域において,生物群(生産者,消費者,分解者)の多岐に及ぶ相互関連によって形成 される環境因子の動的平衡が保たれたまとまりのある生態システムのこと 生物圏のほか,気圏(大気圏) ,水圏,および地圏(岩石圏)が相互関連する 1935 年にイギリスの植物生態学者タンズリー(A.G. Tansley)が提唱した N2: 78% 02: 21% Ar: 0.93% CO2: 0.04% 生態系の構成要素 2)生物圏の構成者(教 p6,図 1-2) 生産者:無機物(CO2)をもとに有機物を合成する独立栄養性の生物のこと(緑色植物など) 生産活動の 7 割近くが陸地で営まれ,そのうちの 7 割程度(全ての生産活動の 2 5 割弱)が,熱帯雨林などの森林の活動による 消費者:直接あるいは間接的に生産者や生産された有機物を栄養源とする従属栄養性の生 物のこと(動物など) 第 1 次消費者(生産者を直接捕食するもの) → 第 2 次消費者(第 1 次消費者 を捕食するもの) → → 最高次消費者(ヒト) 分解者:有機物を無機物にまで分解する従属栄養性の微生物のこと(細菌など) 有機物合成量の内訳 環境微生物群の解析法(核酸増幅法) FISH 法 IS-PCR 法 ・FISH(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)法では,環境試料中の細菌を固定したのち, 16S または 23S rRNA 遺伝子(rDNA)を標的として,設計された蛍光標識オリゴヌクレオチ ドプローブを用いてハイブリダイゼーション操作を行い,得られた蛍光シグナルをイメージ解 析装置によって解析し定量化する ・IS-PCR(in situ PCR)法では,蛍光標識オリゴヌクレオチドプライマーを用いた PCR 法 によって標的遺伝子を 106〜109 倍程度増幅させたのち,得られた蛍光シグナルをイメージ解 3 析装置によって解析し定量化する 3)生態系の機能(教 p6,図 1-2) エネルギーの流れ(開放された系) [ステップ 1] 生産者の光合成により,太陽エネルギーが有機物の化学エネルギーへと変換される 化学エネルギーとして固定される太陽エネルギー(エネルギー同化率)は少な く,森林では 2〜3.5%,農耕地では 1.5%程度である [ステップ 2] 消費者間の食物連鎖を経たのち,化学エネルギーが最終消費者へと移行する エネルギーは,その大半が生産者や消費者の活動エネルギーとして使用される ため,食物連鎖が一段階上がるごとに,全体のエネルギー量(生物量に相当) は 1/10 にまで減少する(消費者のエネルギー同化率は 10%である) 生物量(バイオマス)はエルトンの生態系ピラミッド(教 p15)でもって示される 植物は 1,150 x 1012 kg,動物は 4 x 1012 kg(植物の 1/300) ,微生物は 7 x 12 10 kg(植物の 1/160)である ヒト(80 億人)の生物量は 0.40 x 1012 kg(80 x 108 x 50 kg)であり,動 物全体の 10.0%である [ステップ 3] 生産者と消費者に貯えられていた化学エネルギーが,分解者の活動エネルギーとし て使用される 物質の循環(閉鎖した循環系) [ステップ 1] 化学エネルギーとともに生物間を移動したのち,分解者によって無機物にまで分解 され,環境中へ放出される [ステップ 2] 放出された無機物が生産者によって再利用される ワンヘルス(One Health) ヒトと動物,そして環境における総合的な健全性を表す考え方のこと 4)人工生態系 都市や農耕地などの人為的・人工的な環境(自然)における生態系 生態系の機能(エネルギーの流れや物質の循環)が不完全であり,正確な意味での生態 系は形成されていない 一次汚染物質と二次汚染物質 一次汚染物は発生源から直接排出される汚染物質,二次汚染物質は一次汚染物質同士 または一次汚染物質と環境中の成分との化学反応によって生じる汚染物質のこと 非意図的生成物 使用目的のある化学物質の製造や破棄の過程で生成する副生成物(不純物)のこと 除草剤の製造過程や塩化ビニル樹脂を含むゴミの焼却過程で生じるダイオキシン, 水道水の塩素消毒過程で生じるトリハロメタンなど 4 人工生態系の概要 培養不可能な環境微生物の存在 6 7 10 ・環境水 1 mL には 10 〜10 個程度,乾燥土壌 1 g には 10 個程度の細菌が存在するが, 通常の方法によって培養が可能な細菌は,わずか 0.1〜10%程度である [全菌数] ・細胞の生死に関係なく,全ての細菌細胞数を測定したものであり,DAPI や EB などの 蛍光色素によって細菌の染色体を染色することで求められる [生菌数] ・生きている,つまり生命活動を営んでいる細胞数のみを測定したものであり,生細胞が 持っている酵素活性や呼吸活性を測定(DVC)することで求められる [培養可能な生菌数] ・一般的な細菌の培養用の培地を 20〜100 倍希釈した平板培地に形成されるコロニー数 を測定することで求められる 5 2-3. 化学物質(環境汚染物質)の環境内動態 1)生分解(微生物分解,代謝) 水圏や土壌に生息する微生物によって有機物が無機物にまで分解され,エネルギー源や炭素 源として利用されること 酸化還元,加水分解,脱アミノ,脱カルボキシル,脱ハロゲンなどの諸反応が行われる [自浄作用] 水に存在する微生物の代謝作用(主として好気呼吸作用)によって有機物が無機化され, 水が浄化されること ❶藻類が光合成を行い水に酸素を供給する ❷細菌が有機物を酸化分解し,無機物に変換する → 最も重要なステップ ❸微小動物が有機物を取り込み,細菌や藻類を捕食する ❹水生昆虫などが微小動物をさらに捕食する [難分解牲] 化学物質が微生物による分解を受け難いこと 2)生物学的変換(微生物変換) 水圏や土壌に生息する微生物によって化学物質の化学形が変換されること 無機水銀などは微生物によりメチル化される 3)共代謝(コメタボリズム) 生育基質としては利用できない有機物が,それ以外の生育基質となる有機物の存在下におい て部分的に生分解されること A: 生育による分解では,最終段階ま で代謝反応が進むため,基質(有 機物)の分解にともなって菌数が 増加する 資化された炭素量:基質の炭素量 - 無機化された炭素量 B: 共代謝では,代謝反応が途中で停 止するため,基質が分解されても 菌数は増加しない 生育による分解と共代謝の比較 DDTの連続的な共代謝 6 4)生物濃縮 化学的に非常に安定で,かつ生物体内での代謝・排泄の速度が極めて遅い化学物質が,生物 の体内において高度に濃縮されること 生物濃縮されやすい化学物質 ❶脂溶性化合物(教 p16,表 1-1) 脂肪の多い組織に蓄積する(PCB や環境ホルモンなど) 脂溶性が高い化合物は n-オクタノール/水間の分配係数(log Pow)が高い ❷重金属 蛋白質や酵素のシステイン残基などに結合する(水銀やカドミウムなど) ❸必須元素と化学的性状が類似する金属 必須元素と置換する(ヒ素[リンと置換]など) 直接濃縮と間接濃縮 直接濃縮:体表面から直接吸収されて濃縮されること 水生動物ではみられるが,陸生動物ではほとんどみられない 間接濃縮:食物連鎖によって濃縮されること 水生動物と陸生動物の両方でみられる 濃縮係数:生体内濃度を環境中濃度で除した値のこと 濃縮係数が 1 より大きい場合を生物濃縮という 残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants: POPs) 次の①〜④の特性を有する有機化学物質(ダイオキシン類,PCB,DDT など)が該当 ①人の健康や生態系に対して有害である(毒性) ②水に溶け難く環境中で分解され難い(難分解性) ③食物連鎖などを介して生体内に濃縮しやすい(高蓄積性) ④気化,拡散し地球規模で汚染する(長距離移動性) [残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約)] POPs の廃絶,削減に対する国際社会の協調的取組みに関する条約 ・PCB,DDT などの製造と使用の原則禁止,非意図的に生成されるダイオキシン 類の排出削減,POPs が含まれる製品および廃棄物の適正管理ならびに処理, POPs 対策に関する実施計画の策定などを内容とする ・2001 年 5 月に採択され,2004 年 5 月に発効された ・当初の指定は 12 物質であったが,現在(2022 年 11 月)では,製造・使用お よび輸出入が原則禁止される物質として 29 物質,製造・使用および輸出入が制 限される物資として 3 物質,非意図的生成物として 7 物質が指定されている 5)バイオフィルム 水中において,石などの表面に形成された多種類の微生物が互いに関連した一種の生態系 バイオフィルムの内部では細菌の副産物を他の細菌が利用したり,生育に必要な化合 物を他の細菌に供給したりすることにより,細菌が相互に密接に関係したコミュニテ ィーが形成される [バイオフィルム形成の利点] ❶生育に必要な栄養素が増大し,代謝活動が活発になる ❷水分子との結合力が増大し,細菌が乾燥する危険性が減少する ❸細菌が近接するため,プラスミドなどの遺伝子の受渡しが容易になる 7 A: 浮遊微生物が均一な表面に引 き付けられる A B B: 最初に集落を形成する細菌が, 表面に付着する C: 最初に付着した細菌が微小環 境を形成し,他の細菌にも適し C D た環境が形成される D: 最終的なバイオフィルムが形 成される バイオフィルムの形成過程 6)新しい環境への微生物(集団)の順応 優れた能力を有する少数微生物の特異的な増殖 環境適応に必要な新しい酵素(群)の産生誘導 突然変異や遺伝子の受渡しによる新しい遺伝形質の発現 2-4. 微生物脱臭 1)悪臭物質と脱臭 吉草酸,酪酸などの有機物(炭化水素),アンモニアなどの窒素化合物,硫化水素などの硫 黄化合物が主な悪臭の原因物質 嫌気的な環境において微生物により生成される 悪臭防止法では吉草酸,酪酸,アンモニア,硫化水素など 22 種類の物質が悪臭物 質に指定されている 吉草酸:CH3(CH2)3COOH 酪 酸:CH3(CH2)2COOH 炭化水素 アンモニア 硫化水素 微生物に よる悪 臭物質 の好気的分解と酸化 8 2)微生物脱臭の仕組み 有機物は従属栄養微生物によって代謝され,エネルギー源および炭素源として利用される 窒素化合物や硫黄化合物はエネルギー源として利用される 好気的な環境において微生物,とくに独立栄養細菌によって酸化分解される アンモニアの酸化 亜硝酸菌(アンモニア酸化細菌)による亜硝酸への酸化 → 硝酸菌(亜硝酸酸化 細菌)による硝酸への酸化 硫化水素の酸化 イオウ酸化細菌による酸化 2-5. バイオレメディエーション(生物による環境修復技術) 1)バイオレメディエーションとは 自浄作用を受け難い物質(毒性化学物質,有害廃棄物,重金属など)の蓄積による環境汚染 に対して,人為的な生分解工程を導入して効率良く汚染物質を分解・除去する技術 現在の主な実施対象は土壌や地下水の汚染である(教 p18,表 1-2) 原位置処理法(左)と移動処理法(右)の概略 バイオシュティミュレーション(Biostimulation) 微生物活性化法ともいわれ,無機の栄養塩類や有機のエネルギー源を汚染場所に添加 し,本来生息していた土着微生物を活性化させる バイオオーギュメンテーション(Bioaugmentation) 微生物添加法ともいわれ,高い分解能力を有する外来微生物を汚染場所に添加する 汚染場所に存在していた微生物を外部で培養し添加する方法,汚染場所以外で分離 された分解微生物を添加する方法,汚染化学物質を効率良く分解するように遺伝子 を組換えた微生物を添加する方法などがある 2)バイオレメディエーションの手法 原位置処理(In situ) 汚染場所において行われるバイオレメディエーション処理をいう 9 移動処理(Ex situ) 汚染場所を掘削,搬出したのちに行われるバイオレメディエーション処理をいう 微生物の立場から見たバイオレメディエーション 石油類で汚染された土壌の バイオレメディエーション 10

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